難し過ぎる生活保護用語

私は生活保護世帯出身。

両親の離婚に伴い母子家庭となり母に育てられました。

 

母はパートで仕事をしていたことや兄弟が多かったことも関係して

独り暮らしの保護世帯よりもかなり多い保護費の支給があったようです。

 

母は常々、お前達は自立できる大人になれ、

税金を納めるようになって社会を支える人間になれ、

そう私達に言い聞かせてくれました。

兄弟全員が社会人となって自立し、母も生活保護からは脱却してもう25年が過ぎました。

 

生活保護から自立して20年ほどたった頃、

私は福祉事務で医療関係の相談員として勤めることになりました。

私は自分の経験から人生の一時期、保護を受ける事があっても

いずれは自立するものだと思っていました。

 

しかし、福祉事務に勤め始めて生活保護を受けている方のほとんどは

病気や障害を抱えていて働くことに困難を抱えていること、

保護世帯出身の子供の自立率が低いこと、

2世代あるいは3世代と保護から抜け出せない世帯もあること、

などの実態を知りました。

 

長年ケースワーカーとして勤めている職員さんから

「私の家庭のようなケースはレアだよ」と言われた時は正直ショックを受けました。

 

嬉しいとか、誇りに感じるとかではなく、この国の福祉の貧弱さに愕然としたのです。

なぜこんなことになっているんだろうか?と最初の3ヶ月程は疑問の渦でした。

 

仕事にも慣れ、生活保護の詳しい仕組みを徐々に知っていき、

ケースワーカーに同行して家庭訪問をしてみると色々な事が見えてきました。

 

生活保護法の中身や運用には民間から入った私には

「なぜ?どうして?」

と意味不明なものも結構ありました。

 

例えば「車の保有」

生活保護を受けるにはいくつかの条件や基準を満たさなければ車の保有は認められません。

殆んどの方は車を手放すよう指導されます。

ですが、公共交通機関の発達した都市圏と違い、

私が暮らす地方では車がなければ生活は不便極まりない物になります。

 

地方に暮らす生活保護受給者にとって車が無いことで一番大変なのが就職活動です。

車での通勤ができなければ応募可能な求人が極端に減ります。

なのに、働けると判断されたら就職活動を指導されます。

そうしたやり取りを側で見聞きしているとケースワーカーが登山経験の全く無い素人に

「エベレストの山頂を目指せ」と無理な指導をしているようにしか思えませんでした。

 

その他にも社会で生きる術を制限されることの何と多いことか。

生き辛さや困難があればこその生活保護受給。

なのに制度は生きるために必要な術や物に制限をかける。

そうしておいて「這い上がれ」と言われても気力も湧かないですよね。

 

家庭訪問やケースワークに同行して私がいつも一番歯がゆく感じていたこと、

それはケースワーカーの一方通行なコミュニケーションスキルでした。

生活保護に限らず公的機関で飛び交う言葉は専門用語です。

話している母語は日本語ですが一般人には耳慣れ慣れない言葉だらけです。

 

なので、ケースワーカーには「一般人にもわかる言葉に翻訳して伝える」スキルが必要なはずです。

しかし、現実には彼らの中にそのスキルを持ち合わせている人、

あるいはその努力をしている人は殆んどいません。

自分の言葉は伝わっていることが前提でしか話せない公務員が殆んどです。

 

伝わらない言葉でしか伝えない、だからケースワーカーと保護受給者との間に壁ができる、

保護受給者は分からない言葉の渦に呑み込まれて「理解できない歯がゆさ」を抱えることになる、

その歯がゆさが生きる気力を更に奪うのかも知れないと思いました。

 

もちろん、ケースワーカーは寄り添いたいと日々思っています。

寄り添えるようにと努力もしています。

でも、相互理解が得られないコミュニケーションが続く限り

生活保護の現状や問題は変わらないような気がします。



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